病院の匂いや雰囲気は嫌いじゃないが
歯医者は何となく苦手だった。
診療台で海老反り、
‘’もうどうにでもして下さい‘’風だ。
目隠しをされたまま、口を大きく開ける。
無防備、極まりない。
そして若い女性歯科衛生士は優しくささやく。
「ハイ、起こしますね」
「一度うがいをしましょう」
私は一気に幼稚園の園児に戻される。
そして、最初に撮られたレントゲン写真は
いいかげん不気味である。
いい歳をして、今さらだけど、
素っ裸を見られるような気恥ずかしさだ。
私はその苦手な歯医者に二か月まえから
通っている。
原因は、差し歯が取れたから。
行かなきゃ、行かなきゃ、とは思っていたが
前歯じゃないし、
多少の違和感はあるものの、さして不都合はない。
みっともないが、行かない理由を探していた。
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ある日、
グズグズしている私に放った妻の言葉が響いた。
「ちゃんと行ってくださいよ」
「大事ですよ、歯は」
確かにそう、
間違いない。
「この際、全部診てもらったら」
「食べる楽しみ、無くなっちゃうよ」
「ゴルフにも良くないんじゃない」
「絶対あの時行っておいて良かったと思うから」
畳み掛けられた。
実際、その通りだ。
「ハイ、分かりました」
今は行って良かったと思っている。
何でも良くなっていくのは嬉しいものだ。
妻の強烈な後押しに感謝である。
もうしばらく、私は
聞き分けのいい幼稚園児になることにします。
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