シーンその①)
伊藤は、高梨の2本目のジャンプを祈る思いで見つめていた。
前回のソチ五輪では、優勝候補といわれながら
大きなプレッシャーにつぶされ 、4位に沈んだ高梨沙羅、
伊藤有希は、その悔しさを分かりすぎるほど分かっていた。
苦しい4年間を身近で見てきた伊藤は、高梨に駆け寄った。
「沙羅ちゃん、よくやったね、頑張ったね」
「沙羅ちゃんの存在があったからこそ、ずっと沙羅ちゃんの背中を
追いかけて世界のトップを目指してきたから」
自身の2本とも追い風に見舞われる不運を
嘆き悲しむ素振りを一切見せず,気丈にふるまい、
年下のライバルを優しく抱いた。
その姿は高梨のメダルに勝るとも劣らない
トップアスリートの姿だった。
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シーンその②)
たびたびのケガに泣かされ、もう辞めたいと思った。
しかし、母国開催のオリンピック、国民の期待、
1000を回避し、500メートル一本に賭けたイ・サンファ。
しかし、最終コーナーでの一瞬のミス・・・
泣きじゃくる彼女に、小平奈緒はそっと寄り添い、
肩を抱いた。
「大変な重圧のなかで、よくやったね」
「私は、いつもあなたをリスペクトしているよ」と、
優しく語りかけた。
最大のライバルはかけがえのない親友だった。
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シーンその③)
ジュニア時代から圧倒的な強さで知られるザギトワは
今シーズンからシニアシリーズに参戦し、
初戦で優勝、グランプリシリーズでも3勝し、
世界女王メドベージェワの最大のライバルと目されてきた。
昨年の11月の、右足の骨にひびが入るケガを乗り越え、
‘’アンナ・カレーニナ‘’のテーマにのせて
情感たっぷりに演じたメドベージェワ。
難度の高いジャンプを組み込み、
若さと美しさで魅了したザギトワ。
メダルを分けるほんの僅かのもの、
同門ゆえに二人の胸に去来する思いは複雑だろう、
国として参加は叶わなず、
個人参加での出場となった今大会、
女王メドベージェワは、涙で抱いた。